贈る、迎える、嗜む。エグゼクティブのための「外さない」銘柄選びとペアリング。

「ブランド」よりも「馴染み」を選ぶ。金沢の幻の地酒『御所泉』と、管理職の休息。

激務を終え、ようやく自宅のドアを開ける。ネクタイを緩め、張り詰めていた神経が少しずつ解けていくこの瞬間、我々管理職が求めているのは、背筋を伸ばして対峙するような高級酒ではないのかもしれません。

世の中には、数万円の値がつく「スペックの高い酒」や、行列に並ばなければ手に入らない「ブランド酒」が溢れています。しかし、一日の終わりに寄り添ってくれるのは、もっと静かで、もっと血の通った「馴染みの味」ではないでしょうか。

今回は、私が冬の晩酌で最も大切にしている一献、金沢の知る人ぞ知る銘柄『御所泉(ごしょいずみ)』について綴ります。


目次

1. 探しても見つからない「幻」という名の日常

石川県金沢市御所町。かつて加賀藩の御用達として栄えた歴史を持つこの地に、武内酒造店という小さな蔵元があります。ここで醸される『御所泉』は、県外の酒屋で見かけることは滅多にありません。

なぜなら、そのほとんどが地元・金沢の愛飲家たちの喉を潤すために消費されてしまうからです。流通量が少ないから「幻」なのではなく、地元に愛されすぎているから外に出ない。そんな、地方の宝物のようなお酒です。

私とこの酒の出会いは、個人的な「縁」にあります。妻が金沢の出身であり、義理の父が折に触れて送ってくれるのです。

ネットを叩けば、数多の「日本酒ランキング」が出てくる時代です。しかし、義父から届く段ボール箱を開け、新聞紙に包まれた一升瓶を取り出すとき、そこにはアルゴリズムでは決して導き出せない「情報の重み」と「温度」を感じます。

管理職という立場にいると、どうしても「正解」や「効率」を求めがちです。しかし、酒選びにおいては、こうした「誰かが自分のために選んでくれた」という物語こそが、最高のスパイスになるのだと教えられます。


2. 「スペック」を超えた先にある、85点の美学

さて、その味わいについて、当ブログの評価軸である「4座標」に当てはめてみましょう。

【御所泉の味わい座標】

  • まろやかさ:★★★★☆(米の旨味がしっかり乗っている)
  • ドライさ:★★★☆☆(後味は潔く、ダレない)
  • フルーティーさ:★☆☆☆☆(香りで誤魔化さない実直さ)
  • 爽快さ:★★☆☆☆(落ち着いた安定感)

正直に申し上げましょう。この酒を一口飲んで「雷に打たれたような衝撃」を受けることはないかもしれません。派手な吟醸香があるわけでも、舌の上で弾けるような酸があるわけでもありません。

しかし、それがいいのです。

仕事で刺激的なプレゼンや、複雑な人間関係の調整に晒され続けた脳には、この「まろやか×ドライ」な、中庸の美徳がちょうどいい。派手さはないが、黙々と、しかし確実に期待された仕事を完遂するベテラン社員のような安心感があります。

「100点満点の感動」を一度だけ与えてくれる酒よりも、「毎日85点の満足」を静かに提供し続けてくれる酒。これこそが、大人の日常を支える「本当の良酒」ではないかと私は考えています。


3. 寒い夜の儀式。熱燗と、夫婦の対話

北陸・金沢の冬は厳しいものです。そんな風土で育った『御所泉』が真価を発揮するのは、なんといっても「熱燗」にしたときです。

徳利を湯煎にかけ、少し高めの温度まで上げる。お猪口に注ぐと、冷酒のときには隠れていた米の甘やかな香りが、湯気とともにふわりと立ち上がります。

冬の北海道で暮らす私にとって、この熱燗の温度は、外の世界で冷え切った心を内側から解かしてくれる「儀式」のようなものです。

傍らには、妻が用意してくれた少し濃いめの味付けの肴。 「今回の御所泉も、いい具合だね」 そんな何気ない会話が、明日への活力を養ってくれます。

管理職にとって、自宅での晩酌は単なる食事の一部ではありません。それは、職場での「役割」を脱ぎ捨て、一人の人間に戻るための「マインドフルネス」の時間です。熱燗の温かさは、その切り替えを助けてくれる最良のツールなのです。


4. 北陸の系譜を巡る:天狗舞、手取川、そして立山

もちろん、金沢には他にも素晴らしい酒が多々あります。

接待の席で、相手が日本酒好きであれば『天狗舞』や『手取川』を選ぶことも多いでしょう。 『天狗舞』の山廃仕込みによる力強い骨太な味わいは、脂の乗った料理に負けませんし、『手取川』の洗練された清涼感は、会食の場を華やかに彩ってくれます。これらは、ビジネスにおける「攻め」の酒と言えます。

また、お隣の富山県が誇る『立山』も、私が愛してやまない銘柄の一つです。あの徹底した「綺麗で飽きない辛口」は、まさに北陸の職人気質を体現したような完成度を誇ります。

これらの有名銘柄は、いわば「教科書通りの正解」です。一方で、『御所泉』のような馴染みの地酒は、自分だけが知っている「秘密の隠れ家」のようなもの。

王道を知った上で、あえて自分にとっての定番を持つ。この幅の広さこそが、日本酒を嗜む大人の余裕(エグゼクティブ・スタンス)ではないでしょうか。


5. 結び:自分だけの「ホームベース」を持とう

多忙な日常の中で、私たちは常に「新しいもの」「優れたもの」を追い求めがちです。しかし、ときには立ち止まり、手元にある「馴染み」の価値を再発見してみてはいかがでしょうか。

私にとっての『御所泉』のように、スペックや世間の評価ではなく、自分の背景(ルーツ)や家族との繋がりから選ばれた酒は、どんな名酒よりもあなたの心を癒してくれるはずです。

今夜、あなたが手に取るその一本は、あなたをどんな場所へ連れて行ってくれるでしょうか。 有名銘柄のラベルを眺めるのも良いですが、ときには「馴染みの味」を熱燗で。そんな贅沢な休息を、ぜひ自分に許してあげてください。

至高の一杯は、案外、すぐそばにあるものかもしれません。

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